コラム

ペルソナ設定って本当にみんなやってるの?ペルソナの意味と本当のところ

初版公開日:2019/4/14

最終更新日:2019/4/20

私はこれまでの経歴では感動するほど完璧に設定されたペルソナというのは見たことがありません。

そもそもペルソナの設定という工程とペルソナについての資料を見ること自体が稀です。

もしかしたらWEB業界におけるペルソナなんていうのは都市伝説なのかと思うほどです。

いや、私がそういうレベルにいたというだけで、ペルソナ設定をやるなんて当たり前というのが大多数の可能性もあるのでこれ以上は止めておきます。

そういった訳で、胸を張って書ける内容ではないですが、自分が経験してきて感じたことをお伝えしたいと思います。

ペルソナという言葉を出した瞬間に会議室の温度が下がる

とある案件で、私は孫請けの制作会社の立場でミーティングに参加しました。

ミーティングの趣旨は、新商品のプロモーションにおいてどんなサイトを作るべきかというものでした。

私の上の代理店Bは制作全般を、その更に上か並列の代理店Aは広告やプロモーション全般を担っていて、エンドクライアントは基本的に代理店Aの担当者を介して意思を伝えるというような図式でしたが、ミーティングでは基本的に全員に発言権がありました。

少し議論が停滞してきた中、代理店Bの担当者が「そもそもこの商品のターゲットってどんな人なんですかね?」と切り出しました。

商品自体は若い人に向けたスポーツ用品で、既に完成しかけているチラシのカラーリングやキャッチコピーを見ても男性向け、それも10代~20代前半向けに見えたので、改めて確認するまでもないんじゃないかと私は思ったのですが、驚いたことにクライアントの担当者3名が口々に違うことを言い出しました。

  • 「若い子だね。女性モデルもあるんだから男女は問わないかな」
  • 「社会人になって運動をしなくなってきた若い男性。22歳~30歳」
  • 「どんな人にも合うように設計しているんだから、最近の元気なお年寄りにも買って欲しい」

たぶん一番驚いた(もしくは落胆した)のは代理店Aの担当者で、これまでスムーズにファシリテートしていた姿からは想像できないくらいしどろもどろになっていました。

「この状態ではターゲットがブレてしまって良いサイトを作るのは難しいかもしれません。少し時間はかかりますが、ペルソナ設定からやり直しませんか?」

代理店Bの担当者があえて「やり直す」という言葉を使ったのは最大限の配慮だったのだと思います。

プロジェクト全体の進行度を考えれば、ペルソナ設定らしきものはかなり前段で終わっていないといけないはず。

結局この件はプロモーションにおけるターゲット設定の見直しから行うこととなり、私の会社がWEBサイトの制作を請け負うのは三ヶ月程後ろ倒しになりました。

この件に限らずですが、誰かが「ペルソナを…」と言い出すと必ず場の雰囲気が一瞬凍り付くのを感じます。

そして特徴的なのが「ペルソナを…」と言い出す人と、実際にペルソナを立てるべき立場にある人が違っているということです。

ペルソナは絶対ではない。だからこそ設定してみるべき。

ペルソナの立て方の指南書はたくさんあり、そちらの方が圧倒的に詳しいと思うのでよく聞く疑問に対する私なりの回答を記してみます。

一番よくあるのが「そんな本当にいるかどうかもわからない人をターゲットにして大丈夫なの?」という感じでしょうか。

次いで「ペルソナって自分で都合よくこんなユーザーだったらいいなぁっていう想像でしょ?」というところでしょう。

ペルソナ設定の手順に理解があれば後者の質問は出ないはずですが、ペルソナとは可能な限り現実に則したデータから見る、確率的に存在する可能性が高い人物像と考えて貰えればよいでしょう。

現実に則したデータというのは、既存ユーザーがいればユーザーから得られた行動履歴やアンケートの回答、なければ類似商品に対するデータ、それもなければ総務省や大手企業、調査会社が発表しているデータなどです。

東京都に住む20代の女性は一人暮らしが多いのか実家暮らしが多いのか?実家暮らしの女性が週にコンビニに寄る回数は?時間帯は?19時~20時にコンビニに来店する20代女性は何を購入しているか?といったような複数のデータを掛け合わせることで人物像を絞って行くのです。

この例では「東京都に住む20代の女性」からスタートしましたが、このスタートを実際の購入者履歴から算出するか、希望ターゲットから出力するかはどちらでも良く、似たようなユーザーを探して増やして行くのか、新しい顧客層にアプローチするのかで変わってくると思います。

いずれにせよ、こうした検討の過程が後にとても重要な意味を持ってきます。

例えばこの施策がうまく行かなかったとき、見直すべきがターゲットなのかが判断しやすくなります。

「なんとなく出したプロモーションが30代前半の女性に刺さった」のと「20代前半の女性に向けて送ったはずのメッセージが30代前半の女性に刺さった」では、結果は同じでも、社内に溜まるナレッジや今後の戦略を練る際の材料が大きく変わってくるでしょう。

ペルソナを設定すれば必ずうまく行くという訳ではないですが、設定しておくことで得られるものは非常に大きいです。

狙った一人にも見向きもされないのに、1万人に見て貰おうという傲慢

少し話を戻しまして「そんな本当にいるかどうかもわからない人をターゲットにして大丈夫なの?」という疑問に対してですが、よっぽどおかしなペルソナの立て方をしない限りは「そんな人」はいるはずなのです。

もちろん社会的少数派の方々をターゲットにする場合には細心の注意を払う必要がありますが、広く認知させたい場合において、一般的なターゲット層に当てはまる人は必ずいると信じるところから始めた方が良いでしょう。

そして何よりも誤解すべきではないのは、ペルソナは人物像であって個人ではありません。

できるだけ詳細にあたかもその人がいるかのように、個人をイメージできるように作るのが鉄則ですが、実際に使用する場合はその人が属しているであろうセグメントを意識することになります。

「27歳の独身女性でネイルが趣味」という特徴はそれ自体が一つのセグメントですが、この人は他にどんなセグメントに属するのかを考えたりデータを参照したりします。

ここでデータを使わず「『27歳の独身女性でネイルが趣味』って言ってる人はだいたい○○だよね」みたいな決めつけで話を進めると、その偏見によって実際には存在しないターゲットやセグメントを設定することになり兼ねないので注意しましょう。

とは言え、世間のイメージというのは案外正しいものだったりもしますが。

よくみる不適当なペルソナ

特にBtoB企業のペルソナ設定にありがちなのが「決裁権のある担当者」という、とても都合のよいペルソナを設定してしまう失敗です。

中小企業など、ターゲットとなる企業の規模によってはそういった担当者はいるかもしれませんが、大きな企業になればなるほど、決裁権のある人間は自分でサイトを検索したりせず、部下の担当者が行う場合が多いでしょう。

ペルソナを作成したら、必ず「こんな人が本当にいそうなのか?」を考えるようにしましょう。

もしも100人の社員がいたら一人くらいは「これって私のことだ」と当てはまる人がいてもいいくらいでしょう。

ペルソナが持つ一番重要な役割はプロジェクトメンバー全員に同じターゲット像をイメージさせること

ペルソナを設定することである程度ターゲットの幅が絞られ、様々な戦略において大きく失敗するということを防げると思いますが、本当に効果があるのはより内向きな意味合いがあるのではないかと私は思っています。

例えばペルソナを詳細に設定せず、ターゲット像として「20代後半の男性」と置いたとします。

今これを読んでくれているあなたは、どんな男性をイメージしたでしょうか?

私がイメージするのは「渋谷のベンチャー企業で働く独身男性。身長は172センチ。体型は普通。容姿はまぁまぁ。洋服に興味がある。月に1回は社外イベントに参加している。彼女とは1年前に別れた。休日は好きな洋服を買いに出かけるか、昔の仲間とフットサルで汗を流している」みたいな男性をイメージしました。

どうでしょうか?私のイメージとまったく同じ男性をイメージした人はいますでしょうか。

例えば「体型は普通」と書きましたが、そこまでイメージした人がどれくらいいて、細め、普通、ぽっちゃり、太っているの4択だったとして「普通」をイメージした人はどれくらいいたでしょうか。

体型そのもののセグメントが関係してこない場合もありますが、太っている男性が他に属するセグメントと、細めの男性が他に属するセグメントとでは大きく違ってきてしまいますし、趣味なんかも変わってくるでしょう。

こうした些細とも思われる違いが、世に出るころには大きなズレとなってしまうのです。

少なくとも身内でくらいはターゲット像が一致していなければ消費者に刺さるメッセージを配信するのは難しいということは容易に想像できるのではないでしょうか。

どんな人が、どんなタイミングでそれを目にし、手にするのかまで詳細にイメージでき、それを全員が共有できているチームほど強いでしょう。

最初から正しいやり方を実践するのは難しいかもしれませんが、見様見真似でも少しずつペルソナの設定とその利用が進んで行けば良いなと思います。

まとめ

話が大きく脱線してしまうので省いたのですが、ユーザーのデータ、特にアンケートのデータを元にする時には少々の注意が必要です。

と言うのも、アンケートに答えている時点で「アンケートに答える人」というセグメントに属しているからです。

もしかしたら「アンケートとかを答えるのが面倒な人」「消極的な人」を新しい顧客として囲いたいと思っているのにも関わらず、「アンケートに答えてくれた人」のデータを基にするなんていうチグハグなことが起こっているかもしれません。

真剣に考えれば考えるほど、そんな人がいるのかいないのかの決めつけが自分の中で大きくなってきてしまいます。

なるべく一人ではなく、複数人で議論するようにしましょう。

そして、ペルソナが合っているかの確認がいつでもできる環境を用意し、プロジェクトの途中で躓くことがあったら、速やかに振り返ることができるようにしましょう。

ターゲットをぶらさないこと、ぶれそうになったら修正できることが大事になります。